
“どうせできない”を越えていく。
知徳高校が育む
自己肯定力と主体性
学校法人三島学園 知徳高等学校 校長
渡邉 紀之 先生
SEL教育と「できたことノート」の実践

生徒たちが躍動し、野球部が県優勝を果たした知徳高等学校。その背景には、3年間続けてきた「できたことノート」とSEL教育の実践がありました。自分の可能性に蓋をしていた生徒たちは、日々の小さな「できたこと」を積み重ねながら、自己肯定力と主体性を育んでいます。学校法人三島学園 知徳高等学校の渡邉 紀之校長先生に、その歩みと変化を伺いました。
(インタビュー日:2026年6月11日)
渡邉校長
いきなりですが、野球部が県で優勝したんですよ。

永谷
おめでとうございます。これはすごいことですね。
渡邉校長
ありがとうございます。
ピッチャーも裾野の出身だし、
このホームラン打った子は松崎の出身です。
みんな地元静岡県東部の子たちなんです。
3年生は「できたことノート」元祖です。
3年前に永谷さんの講演で学んだ生徒たちです。
2年生、1年生も、みんな「できたこと」メソッドで
育った子たちですよ。

永谷
おお!
これは、できてる!できてる!秘蔵っ子ったちではないですか。
素晴らしい!
愛鷹球場に応援に行きますね。
渡邉校長
ぜひお願いします。
第一シードですので注目してあげてください。
永谷
ところで、御校では「できたことノート」の活動の3年目ですが、
静岡県ではSEL(ソーシャルエモーショナルラーニング)
という言葉も聞こえてきます。

渡邉校長
はい。
知徳高校では、できたことノートとアゲアゲワークによって
ソーシャルスキルを習得しています。
(アゲアゲワーク:ペアになってお互いの週のベストできたことを伝え合い、[共感+質問]で相互フィードバックする活動)


永谷
なるほど。 SEL教育3年目ですか?
県教育委員会では静岡県版SELとして、 認知スキルと対比して
ソーシャルエモーショナルスキルを置いていますね。
まさに非認知能力です。
知徳高校でいち早くSELを取り入れた背景はなんでしょうか?
渡邉校長
アンケート調査を行うと
やっぱり「自分はダメだ」っていう子が多かったり、
「人間関係で悩む」子が多いんです。
そこで自己肯定力のアップと、 円滑な人間関係に重点を置きました。
永谷さんに「できたことノート」の講演会をお願いしたのもその理由です。
また、円滑な人間関係などは三島にある
フリースクールの三好理事長に講義をしてもらって、
アンガーマネージメントや自分の気持ちをうまく相手に伝える
実習などをやっていただいてます。
私にも気づきがとても多いです。
永谷
「できたことノート」の活用、ありがとうございます。
一過性の講演会だけでなく、
最近は継続的に活用する学校が増えてきました。
私も県の教育の委員もやらせてもらっていますし、
現場の先生たちとも長く付き合わせていただきたいと思っています。
そこでもっと子どもたちにコミットした活動にしていこうと
腹を括りました。
渡邉校長
そうなんですね。
いつも教育活動に協力いただきありがとうございます。
永谷
こちらこそありがとうございます。
ところで、SEL教育に着目したのは、
3年前ということで結構早いですが、
何でそこに気づかれたのですか?
また生徒たちのどのような課題があったのでしょうか?
渡邉校長
私が3年前に沼津東高から知徳高校に来て気づいたのは
「自分の可能性にフタをしている子が多い」ということです。
「どうせできない」とか「人前に出れない」とかいう子も多い。
そこでまず「探究」を始めたんです。
探究って自分でテーマを設定して、 調査研究して、
解決策を提案して、 実践して発表しなきゃならない。
支援頂いている「しずおか共育ネット」の代表井上さんから
「探究をやると同時にSELが必要」
というアドバイスを受けたんですね。
それで東京の「かえつ有明中・高等学校 」に視察に行きました。
マインドフルネスなどをやって効果をあげられている姿をみて、
必要だなと感じました。
特にうちは自己肯定力を上げるという部分と
人間関係を創るという部分でSELを始めたいと思ったんです。
そこで「できたことノート」を推進されている
永谷さんにすぐ連絡させていただいたんですよね。
「自己肯定力」というのは、 うちの中でも一番大きなテーマです。
「知徳GP」と名付けて育成したい9つの力を定義しました。

先生はもちろん生徒にも
この力を育てるのがうちの学校の目標だよと伝え、
教室にも貼ってあります。
永谷
なるほど。
知徳GPの中には自己肯定力の他に
「主体性」が入っていますね。
渡邉校長
主体性や行動力も重点項目です。
これには実は教員のあり方が大切なんです。
教員って何でも先回りで指導してあげたくなるんですね。
いい先生ほど。
でも、今は、そうじゃないてって伝えています。
一回待って、と。
探究って生徒がテーマ設定するのですが、
生徒はあまり社会知らないので、テーマが設定できないんですね。
そうすると先生が「こうしたら」と テーマを与えてしまったり、
生徒が悩んでると「こういう路線」があるよって答えを言っちゃう。
そうではなく、 私たちの仕事は伴走でじゃないですか
って言っています。
一生懸命待とうって。
永谷
なるほど。 待ちですか。
先生方にもこれからの教員のあり方を浸透させていっているんですね。
渡邉校長
はい。
最近は伴走って言葉が先生たちの間からも聞かれるようになったり、
とても良くなってきています。

永谷
私が先生方からお聞きして嬉しかったのが、
「できたことノート」の活動が半年くらい経つと
先生同士の会話がだいぶ変わったっておっしゃっていたことです。
今まで自分のクラスの生徒しか見れなかった先生が、
他のクラスの生徒にも「お前○○頑張ったんだなあ」
って声を掛けるようになったと。
すると先生同士の関係がすごく明るくなったとお聞きしました。
これは「できたことノート」をクラスを超えて共有してる
メリットもあるのかなと思いますがいかがでしょうか。
渡邉校長
それは結構ありますね。
「できたことノート」で生徒の様子が多面的に分かるようになります。
学校ではこうなのに「家庭ではこんな手伝いしてる」んだって。
いろんなことを生徒は頑張っていますからね。
やっぱり生徒たちのいろんな姿の見取りができるのがいいです。
永谷
教員は「できたことノート」にどう関わっているんですか?
渡邉校長
生徒は「できたことノート」毎日書いていますが、
報告・共有は金曜日にまとめて手書きのものを写真に撮って
ITでシェアするやり方で行っています。
そしてフィードバックしています。
教員によっては毎日出させる人もいますが、
そのあたりの指導法はクラス担任に任せています。
今年の校内研修ではすごくよく毎日やっている教員に
講師をやってもらったんですよ。
その方ともう1人、若い20代の男の教員にも
講師をやってもらいました。
この若手はすごく毎日熱心にコメントで返してるので。
その2人に講師をお願いしました。
このような活動で教員にも浸透していきます。
最初、教員の負担になってるんじゃないかと心配していましたが、
朝活動でやろうってなった時に、
「金曜日はできたことノートを全校で揃えましょう」って
教員から言ってくれた時は嬉しかったですね。
永谷
朝活動っていう活動があるんですね。
渡邉校長
はい。去年までは毎日朝読書だったんですよ。
うちの朝読書もどちらかというと、
気持ちを落ち着けるっていうSEL的な意味のほうが多いんですよね。
読書習慣の中で気持ちを落ち着かせる時間です。
今年は週2日ドリル学習でAI教材を使っています。
そして週2日読書を入れています。
週1回金曜日は「できたことノート」を共有する時間。
全校で取り組んでいます。
永谷
「できたことノート」はいつ書かせているのですか?
渡邉校長
去年までは毎日、朝の時間に書かせたんですけど、
放課後に書かせた方がいいと思うという教員も出てきました。
それなら書く時間をまとめてを取るんじゃなくて、
生徒たちに習慣化させて好きな時間に書かせておきましょうと。
そして、金曜日の朝活動の中で共有て、公の場で意見を言ったりして、アゲアゲワーク的なことにも使っています。
永谷
なるほど。アゲアゲワークもやってるんですね。
渡邉校長
はい。
さらにアゲアゲワークは学期単位にも大きな活動としてやっています。
このようなお互いの共有し合う活動の中で定着させていっています。
今では生徒たちにとってもなくてはならない活動ですね。
基本的には1年生の期間にやらせて
2年生は担任に任せているんですが、
結局2年生でもやり続けていますね。
永谷
そうですか。
クラスや学年で一丸となった継続的な活動なので、
すごく定着するでしょうね。
生徒1人1人にとっては自分を見る目が
どんどん肯定的になっていくでしょうね。
続けることで、生徒たちが主体的に取り組むっていう力も
ついてきてるんじゃないでしょうか。
渡邉校長
はい。そのとおり主体性や行動力に現れています。
実は、頑張っているのは大会で優勝した野球部に限りません。
インターハイとか応援に行くと、今までは簡単に負けていたのが、
なかなか簡単には負けないぞっていう部活が
増えてきてくれて嬉しかったですね。
やっぱり忍耐力とかレジリエンスが ついてる証拠ですかね。
序盤で大差がつけられても、もう無理、終わりってならないで
粘って1点差2点差まで追い上げていったりしてました。
そんな生徒の姿を見ると、
やはり「できたこと」という普段から丸を見ることで、
自分でできそうな気がするっていう
自己効力感が育っていると感じます。
頑張れば自分にもできるんじゃないか
という気持ち育ってきていていると確信しますね。

永谷
なるほど。素晴らしいですね。
あと先生方の指導方法というか「生徒へのまなざし」はどうですか?
先生の目が生徒のできたことに向いているので、
生徒にとったら先生がしっかり自分のいい面を見ていてくれて
認められている気持ちになるのではと期待しています。
渡邉校長
そうですね。 その結果、生徒に変容を促せていると思います。
逆に私は教職員ももっと変容しなきゃならないんじゃないかな
と思っています。
「知徳GPで定めた力が、教員はついていますか」
「教員も自己評価やってみましょう」と話しています。
学校はやはり生徒の成長が中心。
でもそこで教員が待つ姿勢がなかったりとか、
先に回って指導しちゃうと、
生徒の可能性を潰していることにもなりかねません。
悪気はないんだろうけど、心配だから先回りしちゃう。
でもそこをグッと堪えて、伴走者でいって欲しいんです。
永谷
なるほど。
今までいい先生なほどどちらかというと
強引な指導があった面もありますね。
でも今は、時代が伴走者を求めている。
その時の教員自身が
教育のあり方を転換しなれけばならないということでしょうか。
それってだんだん変わっていくものですか?
それとも ある時に気づきがあってドンと変わるものですか?

渡邉校長
そうですね。 何かきっかけがあると変わりますね。
なので、私が言うよりは
外部の人にいろいろなこと言ってもらった方がいいと思っています。
探究も大学の先生に来てもらって
「待つことが大事だ」「伴走が大事だ」
という言葉を言ってもらったりしています。
永谷
なるほど。外部人材の活用も重要なんですね。
ところで、お勧めのドラマがあると聞きました。
渡邉校長
はい。
今教員には 月9ドラマ「サバ缶、宇宙へ行く」が
探究の良い教科書だねって言っています。
福井県に面白い水産高校でがあって、
自分たちで サバ缶作っていて、
これを宇宙食にしようって探究をすするんですね。
見事JAXAに採用されて、宇宙に行ったんですよ。
そのドラマの中で北村匠海さんが先生役なんですけど、
ある時気づくんですよ。
「生徒の日記を見て 生徒がやりたいことって
もっと可能性がたくさんあったのに
全部自分は指示をしすぎちゃったじゃないか」と。
このシーン。まさにもっと待つことが必要だったということ。
これいいシーンだなと思って、
あれは教員にとっての探究の教科書になるなと思いました。
今、時代の目が非認知能力が向いてきているのが
すごくいいなと思っています。
それをなんとかいろんな形で可視化できればいいなと思っています。
永谷
なるほど。
教員が伴走者になって生徒たちの主体性を育むってことですね。
これからの知徳高校がますます楽しみになりました。
本日はありがとうございました。

