
自分らしさで前に進む力を。
片浜中学校が描く
これからの学校づくり
沼津市立片浜中学校 校長
金丸 真人 先生
片浜中学校が進める自己肯定感と地域探究

子どもたちが自分の思いを言葉にしづらくなり、不登校や自己肯定感の低下が課題となるなか、沼津市立片浜中学校では「できたことノート」や校内フリースクールF組、地域と連携した探究活動に取り組んでいます。金丸真人校長先生に、子どもたちの変化と、学校・先生・地域が共に育つ実践について伺いました。
(インタビュー日:2026年6月15日)
1.子どもたちへの問題意識

永谷
御校は「できたことノート」を学校のグランドデザインに入れられましたが、先生から見て最近の子どもたちに対して
課題感や問題意識はどこにありますか?
金丸校長
スマホ、タブレットを使った子育てとYouTubeやSNSの影響なのか、
子どもたちが言葉をきちんと理解できていない画面が見られます。
・言葉で相手に自分 思いが伝えられない、あるいは、
・自分の感情を表情として表すことが苦手
といった子どもたちがすごく増えた印象があります。

永谷
体を使ったコミュニケーションの体験が足りないってこと でしょうか?
金丸校長
そうですね。
小さい時に遊びの中で獲得したものが ほぼない状態で、
成長してきている子がいます。
それでは、感情の起伏が現れてこないのは当然かもしれません。
その結果、不登校の子は増えるだろうし、教室に入っても、教室から出てしまう子も見られます。
圧を感じるから 教室に入れないというんですね。
永谷
昔とはだいぶ変わりましたね。
金丸校長
昔ではあまり考えられなかったですね。
最近は、小学校ではいわゆる"いい子"で育って順調に見えても
中学校へ来てガラっと変わってしまう例もあります。
自分に自信が持てず失速。
目の前の子どもたちを毎日見てる現場感ですが、
そんな子がすごく増えてきたと感じています。
2.校内フリースクールF組
永谷
しんどい子が増えてきているんですね。
そんな中何か対策を打っているんですか?
金丸校長
不登校対策として、岡崎市で先駆的に進めている
校内フリースペースのF組の活用を片浜中も行っています
個別のニーズに応じて多様な学びを行って自立を支援する教室ですね。
沼津市は昨年、小学校全校にF組を導入していて
今年度から中学校もやりましょうとなっているんです。
永谷
F組はどんな場所なんですか?
金丸校長
実際の教室を改装して1部屋作っています。
子どもたちの興味に合わせて学びを支援しています。
数学やりたい子は数学、英語やりたい子は英語をやってます。
とくに時限が決まってるわけではありません。
自分で今日来たら何やりたいか考えてもらいます。
ずっとカードゲームすることだってあり。
子どもたちに アンケート取ると
「行ってみたい」っていう声もあります。


永谷
子どもたちのニーズもあるんですね。
金丸校長
はい。
去年、中3でF組にいた男子生徒は、
中2時はほとんど学校に来れませんでしたが
両親から「進路があるから、どうしても学校へ行ってほしい」と言われて
F組だったらいけるということになりました。
永谷
それは良かったですね。何か変化はありましたか?
金丸校長
当初この生徒は自己肯定感がとても低く
「自分には良いところなんかない。 勉強もできないし」
っていう子でした。
F組で1年間過ごしていく中で、
その子の特性や良さが見えてきました。
次第に生徒自身に「自分らしさで頑張っていいんだ」
っていう思いを持ってもらえました。
最後には「僕にはF組があって良かった」って言ってくれて
元気に卒業していきました。
永谷
本当に良かったです。
金丸校長
やはり、少しでも自分を肯定できるものを作っていければ
子どもってどんどん成長していけるし、
社会的自立に向けて自走できるように
なっていくんじゃないかと思っています。
永谷
F組はとても素晴らしい実践ですね。
まさに、子どもたちの「できたこと」に着目して、得意なところ、
好きなところを伸ばすところですね。
金丸校長
はい。
自己肯定感が高まるの間違いありません。
F組で自分の良さを少しでも発揮してもらえたら、
自分の足で次に進んでもらえるのではと思っています。
永谷
なるほど。それは必要な施策ですね。
先生方の反応はどうですか?
金丸校長
今までの学級経営と比べる必要はありませんが、
他の学校のF組を視察にいった先生は
「やっぱりだいぶ違います」という好意的な反応は多いです。
「もっと子供に関わった方がいいかなと思いました」
「子供がこういう興味を持っているんだったら
そこに関わっていかねばと思いました」
「英語は好きだと言っている子に英語を見てあげたいと思いました」
などの声も聞こえてきました。
永谷
先生の理解もあり、順調ですね。
金丸校長
いやいや。まだ今は発展途上ですね。
通常クラス見ながらF組も見るとなると教員の負担も多い。
支援員さんの協力は欠かせません。
「F組の理念はわかるけど、やっぱりやらせなきゃダメでしょ」
という先生の意見もあります。
気持ちはわかるので、なんとか乗り越えられないかと模索してます。
まだまだこれからですが、少しずつ手応えを感じています。
3.できたことノート活用で生徒と先生の成長
永谷
ところで、全校での「できたことノート」の運用はどうですか?
金丸校長
もともと生徒全員が取り組む
「褒めノート」というものがあったのですが、
今では「できたことノート」に統一しています。
できたことノートのワークシート毎週のコピーして使っています。
そしてこのように冊子にまとめています。

永谷
この表紙、素敵ですね。
金丸校長
はい。
表紙は、ある先生が生成AIに読み込ませて作りました。
永谷
実際の「できたことノート」の運用はどうやっているんですか?
金丸校長
子ども達は毎日「できたことをノート」に書いています。
毎週金曜日に担任が回収してコメントを書いて戻しています。
永谷
生徒たちは、できたことは書けていますか?
金丸校長
はい。この通りです。
みんな頑張って書いていますよ。
右のページを書ける子も出てきました。
(*右のページは、週1のベストできたことから新しい行動を見つける内省ページ)

永谷
でも最初は書けない子もいたのではないですか?
金丸校長
はい。
子供たちは比較されることに慣れている問題があります。
そういう子は、立派なことを書こうとして最初は書けません。
しんどい子の何割かは保護者が比較をしがちな傾向が見られます。
がんばらせたいために多少の比較は致し方ないとは思いますが、
そこばかりだと子どもはキツそうです。
永谷
そのような子には、どのようにアプローチするんですか?
金丸校長
「俺なんか何もできたことないよ」って言っている子に
小さくてもいから「できたこと」に着目しようよと伝えてます。
「いやいや別に誰かと比較することじゃないから」って伝えます。
比較を取っ払って自分を見る目を変えてあげると
そのような子も次第に書けるようになってきます。
結果よりもありのまま。
プロセスを見て褒めるより、認めるといったアプローチです。
永谷
なるほど。
そうやって書けない子も書けるようになっていくんですね。
金丸校長
はい。
このあたり、支援する教員にとってもチャレンジです。
今までとは違う部分を見取る必要があるので。
そのために、教員も一般的な評価基準で見るメガネを外さなきゃならないんです。
永谷
先生たちの支援も欠かせませんものね。
(ノート見ながら)それにしてもやっぱり手書きがいいですね。
肯定感が上がってくると筆圧が変わってくるのもわかります。
最初はそうじゃない子もだんだん元気になってきて、
力強くなってくんですよね。
でもしっかり書けてるね。この子は。
少しずつ元気になってきてるのがわかりますね。

金丸校長
(あるノート見ながら)
この子は、体育が嫌いで体育の時間は逃げてた子です。
体育は目標を立てるとそれに行かなきゃならないので、
そこまでいけない自分を認めなきゃいけない
っていうのがきついみたい。
でもノート続けて少しずつ変わってきていますね。
永谷
そうなんですね。
プライドが高いのかも。
失敗やできないことを受け入れられないという。
でもこうやって生徒たちの見取りができるのがいいですね。
先生が見て、その生徒を受け入れながら、
成長を見守り少しずつ支援できる。
金丸校長
支援のしがいがありますね。
具体的な声かけがしやすくなります。
「三角形の面積が計算できた!」って書いていると
「すごいね。頑張ったのはどのあたり?」って聞ける。
すると「時間通りにできた!」 って言ってくれる。
フワっとした言語感がクリアになる。

永谷
いいですね。
このような支援をしていくと、
メタ認知が育ち論理的思考力が育ちますね。
ここにも「体育を全力でやった!」って書いているので、
「全力ってどのあたり?」って聞けますよね。

金丸校長
自分でやれてることを書けているけど、
感情が強めに出る子がいますね。
だから「全力で」とか雰囲気で表現してしまう。
永谷
認めてほしいのかもしれませんね。
しっかり「頑張ったこと」と認めあげたうえで
「全力ってどのあたり?」と言語化させることは
感情コントロールの「感情」「認知」を分けるという
訓練にもつながっているでしょうね。
金丸校長
はい。そのとおりです。
できたことノートを見ると、会わなくてもわかることがあります。
この子にどのようにアプローチしようかと
教員が考えられるのもいい点です。
永谷
先生にもよくわかるんですね。
先生からの声かけによって言語化されることで、
感情的な思考から論理的な思考に変わってくるでしょうね。
金丸校長
そうなんです。
できたことがふわっとしてる子いる子に、自己肯定感低めの子が多い。
具体的に書ける子は、何を頑張ったか自分自身を理解していますね。
永谷
まさにSELで言う「自己理解」ができたことノートでわかるんですね。
このような先生方の声かけが子供たちを伸ばしますよね。
金丸校長
その通りです。
そのあたりの先生のスキルを上げていきたいよね、
と先生方と話してしています。
「こうやってみたらすごく子供たちはこうなりました」っていう話を
職員室でどんどん言ってほしいなと思います。
それが理想の職員室です。
そうなれば、先生も成長し子供も成長するサイクルが
ぐるぐる 回っていくので。
永谷
先生も伸びますね。
まさに、先生と生徒の相互成長の場、
これができてる学校ってことなんですね。
4.探究のカリキュラムと地域の巻き込み
永谷
探究はどうですか?
カリキュラムはどう工夫されているんですか?
金丸校長
課題として、現在の総合的な学習は、探究って言いながらも、
結局テーマやプログラムがほぼ決まっていて
やらされてる感が出てしまうことがありました。
でもそれは良くない。そういう状態は打破しなきゃいけない 。
ということで、片浜中は、
地域の人たちとのリアルの連携を重視しています。

永谷
地域との連携ですか。いいですね。
金丸校長
地域の人が関わって素晴らしい体験をしていきながら
追求する探究活動をしていこうと。
今の子供たちは、実践とか体験がかなり足りないから、
地域の人とコミュニケーションを取りながら
総合的な学習の時間を進めていっています。
沼津市では「志ラボ」という名称でやり始めています。
1年間かけた活動が繋がっているプログラムになっています。
最終的にそれが3年生まで続いていったらいいと思っています。
例えば、1年生で「福祉」の学習で、
「こういう施設に行ってこういうことを学んだ」という実績があれば、
3年生になったときに 「じゃあ次は地域で福祉をどうできるか」
とつながったらいいと考えています。
なかなか一気に浸透させるのは難しいけど少しずつ実現してきてます。
永谷
今の探究もパターン化でマンネリになっていると聞きますが
このように地域の皆さんがリアルに関わってくれると
生きた教材になりますよね。
地域の人の巻き込みって大事ですね。
先日も私の講演会では生徒向けの講演会なのに
保護者がたくさん来てくださいました。
うまく進学進級説明会に日を当てているのがうまい!ですね。

金丸校長
ありがとうございます。
保護者が生徒の講演会にあんなに参加してくれたのは
すごいプラスになります。
生徒たちの自己肯定感や行動力のために
どんなプログラムを実践しているか
聞いてもらえて良かったなと思っています。
ある保護者さんの声で、
「最近子どもがだんだん言うこと聞かなくなってきて
親が意見を言っても結局反発されて終わっちゃってたけど、
今日、永谷さんの講演を一緒に聞くことで
家帰ってきて 『今日の講演どうだった?』という話ができた。
できたことについて親子で会話が弾んでとてもありがたい」
とおっしゃっていました。
永谷
なるほど。嬉しい声ですね。
こうやって保護者や地域を巻き込んでいく活動って大切ですよね。
5.地域との関わりと開かれた学校づくり
永谷
子どもたちのために今考えてることや
未来的な視点なことって何かありますか?
金丸校長
「できたことノート」の活動でこうやって自己肯定感が上がってくると
どんどん地域社会に出ていってくれることを期待しています。
特に中学校、高校で、 この片浜で地域と一緒になりながら
自分を高めていってくれたらすごく嬉しいなと思います。
そのための総合の時間であったり、
「できたことノート」であったり、と思っています。
地域とつながって、
地域の人から褒められれば生徒は伸びていくと思うし、
学校の中だけじゃない世界観やつながりを作っていきたいと思います。
永谷
地域とのつながりいいですね。
逆に 地域の人たちへの期待みたいなものありますか?
金丸校長
おかげさまで片浜の地域の方々はすごく学校に向いてくれています。
この前、自然教室を学校防災キャンプという形にしたのですが
地域に協力要請したら、 地域の方々かなり手伝ってくれて、
夕食作り、防災食作りも地域の方でかなりやってくれたし、
キャンプファイヤーのセットを作って
片付けも地域の方々がやってくれました。
なおかつ、子どもたちと一緒に
その参加してくれた30人近い地域の人たちが
一緒にフォークダンスをやったりしました。
先生方は初めてやったことなので大変でしたが、
子どもたちと地域の方々にとってとても楽しい会となりました。
永谷
すばらしい実践ですね。
このような活動で学校が地域に根付いていきますね。
何より地域の人も嬉しいでしょうね。
金丸校長
やっぱり子どもたちといろいろやるのは楽しいものです。
開かれた学校になりますしね。
逆に地域から今度は、
「地域でこう考えてるいるんだけど中学生参加してくれないか」
という声が聞こえ、いい関係が自然にできてきています。
学校と地域が双方向で自然に行き来できるようになっています。
永谷
双方向ですか。素晴らしいですね。
金丸校長
はい。
そうすることで教育活動と地域の社会活動がリンクしてくるかなと。
そういう社会を形成していきたいなと思います。
私は来年定年なので、次の世代に引き継ぎですが。
最近、地域もどんどん疲弊してきていますから、
これからは学校の在り方みたいなものが問われているかと思います。
永谷
確かに昔はもっと学校と地域が近かったですかね。
運動会なんでおじいちゃんおばあちゃんまで来てね。
大人も好きに自由に楽しんでいたかもしれません。
金丸校長
ある時期から急に萎縮しちゃって
地域は学校に口を出しちゃいけないとか、
なんかそんな感じになりました。
地域の人たちが学校へあまり関らなくなったと。
授業参観の日でなくても学校の様子を見に来ないとか。
だんだんそうなっちゃったかなって。
壁が凄くできてしまった気がします。
永谷
なるほど。
でも校長先生の考え方次第で、
これからまた地域が関わりができていきますね。
別に地域も学校を避けてるわけじゃないですしね。
金丸校長
そうですね。
いろいろあった歴史の中でそうなっていっただけなので、
また戻れると期待しています。

永谷
こうやって子どもたちを育む文化を地域で作っていけたら
次世代も明るい未来が待っていそうですね。
先生の話を聞いてとてもワクワクしました。
今日はインタビューありがとうございました。
金丸校長
こちらこそいろんなことを聞いてくださりありがとうございました。
引き続き「できたことノート」の実践にご支援ください。
永谷
もちろんです!
来年の講演会も楽しみにしていますね!

